解説

AMI HAPPY

ねえねえ、智也くん!これ、面白そうな論文のタイトル見つけたんだけど…『Evolutionary System 2 Reasoning: An Empirical Proof』…進化?システム2?何それ?

TOMOYA NEUTRAL

ああ、その論文か。面白い研究だよ。簡単に言うと、今のAI、特に大きな言語モデルって、実は人間みたいにじっくり深く考える力がまだ足りないって話から始まってるんだ。

AMI SURPRISED

え?でも最近のAIってすごく賢いって聞くよ?会話もできるし、文章も書けるし。

TOMOYA NEUTRAL

うん、確かにパターン認識や知識に基づく速い思考、論文で言う「システム1推論」はすごく得意だ。でも、複雑なパズルを解いたり、論理を組み立てて新しい答えを導き出したりする、じっくり考える「システム2推論」は苦手なんだ。

AMI SURPRISED

システム1とシステム2…なんか心理学の本で見たような?で、それが進化とどう関係あるの?

TOMOYA NEUTRAL

良いところに気づいたね。論文の核心はそこだ。人間は長い時間をかけて、開かれた不確実な環境で「適者生存」の進化をしてきた。でも、今のAIは人間が用意した特定のデータで訓練されているから、その進化の仕組みが根本的に違うんじゃないか、って考えてるんだ。

AMI HAPPY

なるほど…じゃあ、AIにも人間みたいな進化のプロセスを経験させれば、もっと深く考えられるようになるかもしれないってこと?

TOMOYA NEUTRAL

その通り。で、この論文で提案されてるのが「ERO」ってフレームワーク。進化的推論最適化ってやつだ。

AMI SURPRISED

ERO?どうやってAIを進化させるの?

TOMOYA NEUTRAL

まず、一つのAIモデルを親として、その神経ネットワークのパラメータをちょっとずつ変えた「子供」のAIをたくさん作る。これが個体群だ。で、その子供たちに難しい推論問題を解かせる。

AMI HAPPY

ふむふむ。で、よくできた子だけが生き残るの?

TOMOYA NEUTRAL

そう。問題をよく解けたAI、つまり推論スコアが高いAIだけを選んで、またそのパラメータを元に新しい子供たちを作る。これを何世代も繰り返すんだ。まさにダーウィンの進化論をAIに適用してる。

AMI EXCITED

すごい!で、実際にうまくいったの?

TOMOYA NEUTRAL

これが面白いところでね。実験では、人間の抽象的推論力を測る超難しいテスト「ARCベンチマーク」を使ったんだ。最新で最強と言われるGPT-5ですら、このテストの正解率は50%も行かないらしい。人間は100%近く解けるのに。

AMI SURPRISED

え、GPT-5でも半分も解けないの?それってすごく難しいんだね。

TOMOYA NEUTRAL

そう。で、彼らは規模的にはるかに小さい「Qwen-7B」っていうモデルを、このEROで進化させたんだ。そしたら何が起こったと思う?

AMI HAPPY

もっと賢くなった?

TOMOYA NEUTRAL

その進化させたQwen-7Bが、何と元々の巨大なGPT-5の推論性能を上回ったんだ。小さいモデルが、進化のプロセスを通じて、大きなモデルに勝る推論能力を「発現」させたってことになる。

AMI SURPRISED

わあ!それはすごい発見じゃない?大きければいいってわけじゃないんだ。

TOMOYA NEUTRAL

そう。この結果の意義は大きいよ。AIの能力を高めるのに、ただデータを増やしてモデルを大きくするだけじゃなくて、生物の進化に似た「適応と淘汰」のプロセスを組み込むことが有効かもしれない、って示したからね。

AMI HAPPY

将来はどうなるの?もっと人間みたいに考えるAIができるってこと?

TOMOYA NEUTRAL

可能性はあるね。でも課題も多い。この進化のプロセスにはすごく計算資源がいるし、一つのタスクに特化して進化させると、他のことはできなくなる「過剰適合」のリスクもある。これからは、いろんな推論タスクに広く適応できる進化の仕組みを探る研究が必要だと思う。

AMI HAPPY

ふーん…でも、AIが進化するって考えるとワクワクするな。将来、AI同士が競争して、どんどん賢くなっていく世界が来るのかも?

TOMOYA SAD

…その前に、まずは僕の研究の進化を考えないと。明日のゼミの資料、まだ全然進んでないからな。

AMI HAPPY

あはは!智也くんも適者生存のプレッシャーを感じてるんだね。じゃあ、進化する前に絶滅しないように頑張って!

TOMOYA NEUTRAL

…お前、そういうとこだよ。

要点

現在の大規模言語モデル(LLM)は、特定のタスクでは優れた能力を示すが、人間のような深い論理的推論(システム2推論)能力には限界がある。

この推論能力のギャップは、機械知能の進化が人間の進化(開かれた環境での自然淘汰)とは異なることに起因する可能性がある。

論文では、進化戦略(Evolutionary Strategy)を用いてLLMのパラメータを直接進化させる「進化的推論最適化(ERO)」フレームワークを提案している。

EROは、推論タスクに対してLLMの集団(個体群)を生成し、推論スコアに基づいて「適者生存」の原理で進化させる。

実験では、比較的小さなモデル(Qwen-7B)をEROで進化させることで、最新の大規模モデル(GPT-5)を上回る推論性能を発現させた。

この発見は、膨大なデータによる事前学習だけでなく、「進化」というプロセスが機械知能に人間的な推論能力をもたらす可能性を示唆している。

参考論文: http://arxiv.org/abs/2512.05760v1